【第2回】あなたのカット代は誰に、どう還元されているか?〜「面貸し」という選択肢〜

美容室・美容師の働き方が大きく変わりつつある今、「カット代はどこに、どう分配されているのか?」という点は、実は多くの方が知らない重要なポイントです。

本記事では、前回に続き美容業界のリアルな裏側を紐解きながら、固定給モデルの限界報酬構造の課題、そして近年注目される「面貸し(シェアサロン)という新しい働き方」について分かりやすく解説します。

努力とスキルの「対価」を求めて

前回の記事では、美容師の早期離職の背景として「低賃金問題」を取り上げました。

厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」(2023年)によると、美容師の平均年収は379.7万円。全産業平均の381.96万円とほぼ同水準、もしくはわずかに低い水準です。

国家資格を保有し、高い専門性と長時間労働が求められる職業であるにもかかわらず、適正な評価とは言い難い状況にあります。

では、なぜ頑張っても収入が伸び悩むのか?
その理由は、「時間単価の低さ」にあります。

  • 施術以外の雑務
  • 予約管理
  • お客様の待ち時間
  • 売上に直結しない作業の多さ

固定給の場合、こうした「見えない労働」に時間を奪われるほど、時間あたりの生産性が低下し、収入アップにつながりにくいのが現実です。

自由を求めたハイキャリアの選択「面貸し」の台頭こうした固定給モデルの限界を感じたベテラン美容師たちが選び始めたのが、近年急速に広まっている「面貸し(シェアサロン)」という働き方です。

● 「面貸し」とは?

特定のサロンと雇用契約を結ばず、施術スペース(席・ミラー)を借りて働く独立型のスタイルを指します。美容師は個人事業主として施術を行い、売上からサロン利用料を支払う仕組みです。

【面貸し美容師のメリット】

  • 高歩合の報酬が得られる
  • 自分の集客力に合わせて収入を伸ばせる
  • 働く時間・休みを自分で決められる
  • 子育てとの両立がしやすい
  • スキルアップの時間を確保できる

つまり、面貸しはキャリアを積んだ美容師が“自分の価値を最大化できる働き方”として注目されています。

独立したプロフェッショナルとの新しい関係

しかし自由度の高い面貸しには、独立した美容師側にも「見えない責任」が生まれます。

  • 税務処理
  • 経費管理
  • 集客活動に関するコンプライアンス
  • 顧客管理のすべてを自己責任で遂行

組織に守られる会社員ではなく、一人の事業主として美容サービスを提供するのが面貸し美容師です。

だからこそ、私たちが面貸しの美容師を利用する際、
「責任と自律をもって施術しているプロ」であることを理解しておくと、より深い信頼関係が築けるでしょう。

このような新しい働き方が広がることで、私たち利用者は、より専門的で質の高いサービスを受けられる未来へと近づいています。

次回予告

コラム第3回:『朝練・夜練の限界。実務に直結する次世代教育とOJTの再構築』
業界の教育体制のリアルに切り込みます。

【引用文献】

厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
公式ページはこちら

PROFILE

藤井敏秀(ふじいとしひで)

1979年生まれ、兵庫県宝塚市出身。高知大学理学部を卒業後、出版社にて美容専門誌の編集などに携わる。2024年にヘアケアメーカー、株式会社awaas(アワーズ)を設立。
Instagram @fujii_awaas/