執筆者プロフィール
藤井敏秀(ふじいとしひで)。1979年生まれ、兵庫県宝塚市出身。高知大学理学部を卒業後、出版社にて美容専門誌の編集などに携わる。2024年にヘアケアメーカー、株式会社awaas(アワーズ)を設立。
≪Instagram≫
https://www.instagram.com/awaas_beauty/(企業アカウント)
https://www.instagram.com/fujii_awaas/(個人アカウント)
序章:20年間、専門誌の最前線で見てきた「髪のプロのドラマ」
私がこの美容業界に関わり始めてから20年以上が経ちます。その間にたくさんの美容師と撮影や取材等で関わらせてもらいました。彼らは皆、ハサミ一本で人の人生を輝かせようとする、情熱に満ちた職人たちでした。
しかし、華やかな表舞台の裏側で、この業界は常に大きな構造的な課題と戦い続けています。長時間労働、低賃金、そして何よりも優秀な才能の流出です。私たち業界に携わる人は皆、「どうすれば美容師が長く、豊かに働けるか」に向き合い続けています。
全10回を予定している当コラムでは、私たちが日常的に利用する美容室のサービスが、今、テクノロジー、サステナビリティ、そして働き方の変革によって、根本的に変わろうとしている事実をお伝えしたいと考えています。あなたの「お気に入りの美容師さん」の仕事の裏側、そして彼らが提供してくれる「美しさ」の価値を、データとリアリティをもって深く掘り下げていきます。
※出版社に勤めておりましたが、もともと理系ということもあり執筆は得意ではありません。AIの力も借りて、執筆します。(正直!)
第1回:「お気に入りの美容師さん」が突然辞める理由 ~失われる才能の重み~
衝撃的な新人離職率が業界を蝕む
あなたは、担当の美容師さんが突然お店を辞めてしまい、次に訪れた時、慣れない新しい人に担当された経験はありませんか? 「せっかく信頼関係を築けたのに・・・」と落胆した経験は、実はこの業界の構造的な課題を映し出しています。
私が毎年定点観測しているデータの中でも、特に深刻なのが「新人美容師の早期離職率」です。最新の調査データ(2024年)は、その厳しさを明確に示しています。新人美容師の36.7%が、入社後わずか3年未満で最初の職場を辞めてしまうのです。
この「3人に1人」という数字の重みを考えてみてください。彼らは、厳しい国家試験をクリアし、多額の学費と数年間の努力を投じて、ようやくプロのスタートラインに立った才能たちです。その多くが、技術を本格的に習得する前に夢を諦めてしまう。これは、専門的なスキルと国家資格が求められる職業としては、異例の高水準であり、業界全体の持続性を根底から脅かしています。
長時間労働と「生活の不安定さ」という壁
この高すぎる離職率の背景には、長年にわたり業界に蔓延してきた「徒弟制度」的な文化が残っているからです。多くの美容室では、営業時間が「9~11時間未満」であるサロンが全体の86.6%を占めています。これだけでも長時間ですが、実際の拘束時間はさらに長くなります。開店前の朝練、閉店後の夜練、サロンワーク後の清掃や雑務など、サービス残業が常態化しているケースが少なくありません。
「長時間労働の割に給与が低い」「収入が不安定」という金銭的なストレスが、若い才能に重くのしかかります。どれだけ情熱があっても、生活の基盤が安定しなければ、プロのキャリアを継続することは困難です。
私たち顧客からすると、「あの店はベテランがいない」「技術が安定しない」と感じる原因は、この負の連鎖にあります。サロンがせっかく教育に投資しても、3年以内に才能を失うため、次世代への教育投資をためらう。結果、新人は十分な教育機会を失い、スキルアップが遅れる。そして、モチベーションが低下して辞めていく。この「負のスパイラル」が、あなたの髪の未来にも影を落としているのです。(やや大げさな言い方ですが・・・)
業界の新しい潮流、「労働環境の透明性」
しかし、希望もあります。近年、この問題に正面から向き合い、「残業ゼロ」「完全週休二日制」を宣言し、労働環境の透明性を高めている先進的なサロンが増えてきました。優秀な美容師ほど、「無理をして働く」時代から、「効率よく、正当に評価されて働く」時代への転換が広がりつつあります。
私たちが美容室を選ぶ際、その価格や立地だけでなく、「そこで働く人が幸せに働けているか」という視点を持つことが、間接的に業界の改善を後押しします。あなたの担当者が長く、最高の技術を提供し続けてくれるために、業界は今、この「労働環境の壁」を乗り越える戦いを続けているのです。
コラム第2回の予告
『あなたのカット代は誰に、どう還元されているか?「面貸し」という選択肢』に続く。
引用文献
- 美容サロン就業実態調査(2024年) 株式会社リクルート https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2024/0425_14272.html
- 厚生労働省 生活衛生関係営業経営実態について https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei22/14-02.html
PROFILE
