第3回:「朝練・夜練」の限界

~実務に直結する次世代教育とOJTの再構築~

国家資格と現場の「深い溝」

美容師さんの成長過程において、誰もが通る道が「朝練・夜練」です。
これは、営業時間外にひたすら技術を磨くという、この業界の伝統的なOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)です。

しかし、長年、専門誌で人材育成の現場を見てきた私は、この伝統的な教育方法が、現代の美容業界において機能不全を起こしていると感じています。
その原因の一つが、「学校教育と現場ニーズのギャップ」です。

厚生労働省の調査(2023年)を見ても、美容専門学校が特定の技術(例:オールウェーブセッティング)の教育を予定していない理由として、
「現場での実用性がないため」、
「お客様からオールウエーブの要望が全く無いため」
といった、現代の顧客ニーズとの具体的な乖離が指摘されています。

つまり美容師さんは、国家試験合格に必要な技術と、実際にサロンでお客様に求められる最新技術との間にある、
大きなギャップを自ら埋めなければならないのです。

「リスキリング」が命運を握る時代

このギャップを埋める役割を担ってきたのが、営業時間後の「朝練・夜練」でした。
しかしこれは、長時間労働を助長し、早期離職を引き起こす要因にもなっています。

現在の美容師教育は、「労働時間外の努力」に依存する形から、
効率的な継続学習(リスキリング)へと大きくシフトしています。

美容師にとってのリスキリングとは、次のような分野を指します。

  1. 最新トレンド技術の習得
    SNSから生まれる韓国風メイクやネオパリジェンヌなど、新しいスタイルを迅速に取り入れる力。
  2. メディカル知識との融合
    頭皮や髪のトラブルに対する専門知識、美容医療との連携理解。
  3. 環境・倫理観の習得
    サステナブルな製品知識や、景品表示法など広告規制への正しい理解。

これからの美容師は、手先の技術だけでなく、
複合的な知識を学び続ける姿勢がなければ、
瞬く間に市場から取り残されてしまいます。

「技術者」から「コンサルタント」へ

私たち顧客は、もはや単に「髪を切ってもらう」だけの存在として、美容師さんを見ていません。
ライフスタイルや悩みを理解し、最適な提案をしてくれる
「美容のコンサルタント」としての価値を求めています。

美容専門学校と現場の間では、卒業後を見据えた体系的な人材育成連携も進められていますが、
業界全体として、ブランクのある美容師を再教育し、
最新技術に対応させるためのプラットフォームは、まだ発展途上です。

あなたが通うサロンが、教育を「コスト」ではなく
「未来への投資」として捉え、
効率的なOJTやリスキリングの機会を提供しているか――。

それこそが、そのサロンが長期的に質の高いサービスを
提供し続けられるかを測る、重要なバロメーターになるのです。


次回予告

コラム第4回:
『DXが変える、サロン予約の未来』

に続く。

lionel